マンガ業界

東京都の規制条例は全てのマンガ誌に及ぶ

ついに東京都の規制条例が通っちゃたわけだけど、ツイッターとか見ていても、ほとんど誰もこれから青年誌他の普通のマンガ誌で起こるであろう表現規制 に関しては触れていないような気がする。

多くの人は、少年誌、少女誌などの子供が買うマンガ誌で法に触れるエロ表現ができなくなるが(これはこれで大きな問題だが)、青年誌や劇画誌や4コマ誌などこれまで大人が中心に買ってきたマンガ誌ではこれまで通りのレベルで表現は自由だと思っているんじゃないだろうか。

でも、ビッグコミックとかスピリッツとかヤングジャンプとかモーニングとかアフタヌーンとか漫画アクションとか漫画サンデーとかみこすり半劇場とか本当にあったゆかいな話誌だとかも、現状、書店やコンビニ等で18歳未満の子供も買えるわけだ。
都条例が規定しているゾーニングにおける成人指定のコーナーで売られているわけではないのだから。

石原都知事や猪瀬副知事は「表現の自由を規制しているわけではない。書きたいものを書けばいい。ゾーニングの問題だ。」(大意) というようなことを再三述べているが、実際にはあらゆる雑誌における表現の自由の規制につながってしまうと私は思う。

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石原都知事はマンガ界の自主規制の実態を知ってるの?

http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/101130/tky1011302135012-n1.htm
取材陣から自主規制の現状を聞かれると 「自主規制が徹底していないから。氾濫に近い形だから制限せざるをえない。みんな我欲だよ。我欲でみんな反発する」

石原都知事はマンガ業界の現場を全く知らないのだと思う。

25年、マンガを描いてきた私は、編集現場の自主規制がかなりきついことを身をもって知っている。

今回の改正案では、
刑法や民法に違反する性行為を「不当に賛美し誇張するように描写された漫画等」 が規制を受けるそうだ。
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/101122/tky1011222243015-n1.htm

私としては前回の非実在青少年がかかわる性行為 よりもさらにやばくなったような気がする。
編集現場(とマンガ家)がさらに萎縮して自主規制度を高めるのではないかと。

例えば、「他人のセックスを盗撮して楽しむ」のも一つの性行為だろう。
無論、盗撮は違法である。

昔、私は『気分は形而上』というマンガの「オタク学生武沢君」というシリーズの中で、武沢君がラブホの天井に小型CCDカメラを仕掛けて盗撮するというネームを描いた。
うろ覚えだが(自分で描いたくせに)、彼女を必死にラブホに誘い、その理由が他人のカップルの盗撮のためだった、みたいなオチだったと思う。

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池田信夫さんはなぜ15%に怒ってるの?

ツイッターでボソッとつぶやこうと思ったが、確実に140字超えるのでブログで書く。
まとまった論じゃなく、なんとなく感じた疑問をつぶやくだけである。

例の「ひな形」に関して、きのうからネットのあちこちで一般読者と思われる人々が出版社批判をしているが、どうもよくわからない点がある。

今のところ、電子書籍の売り上げなんて全然たいしたことがないと思う。
だから、出版社にとっては、電子書籍の著者印税なんて、実は15%だろうが70%だろうが金銭的には大差ないはずだ。

したがって、むしろ、電子書籍市場であまりお金が動いていない今のうちに、出版社は資本力を生かし、多少の損を承知で逆に印税率を暫定的に80%くらいにしてしまえば、既存の作家の囲い込みには有効なはずだ。
それだけ高率なら、パブーやアゴラブックスなどにプロの作家は流出しにくくなる。
契約書は「黎明期における暫定印税率による暫定契約書のひな形」とでもしておけば、将来にわたって縛られることもないし。

でも、もしそれをやっていたら、ネットでは「出版社がダンピングをやって、ベンチャーの電子書籍サイト潰しを計っている」と騒ぎになっていたと思う。

で、私はそういう騒ぎならば理解可能だ。

しかし、15%で騒ぎになっているのはよくわからない。

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電子書籍印税率15%の「ひな形」は搾取なのか?

最近、出版社連合が電子書籍に関して、印税率を15%で統一することと、電子書籍化の権利を版元の出版社が独占的に持つ という、契約書のひな形を出したことが話題になっている。

(参考記事)
「asahi.com 本の電子化、契約書ひな型作成 出版社有利、作家反発も」
http://www.asahi.com/culture/update/1005/TKY201010050182.html

こう聞くと一瞬、出版社側のぼったくり的契約条件のように感じる人もいると思うが、はたして本当にそうだろうか。

たしかに、私も出展しているパブーなどは印税率70%で、しかも同じ作品を別の電子書籍サイトに出展しようが、出版社の紙の単行本で出そうが自由であり、それと比べれば、上述した「ひな形」の条件は出版社側にだけ非常に有利に見える。

「ひな形」を批判する人達の中には、作家、特に新人は立場が弱いので、出版社に未来永劫囲い込まれてしまい搾取され続けるだけ、みたいなことを言う人もいる。

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佐藤秀峰さんの捏造?勘違い?

佐藤さんのツイッターに以下のような文章が書かれた。

面白かったですよ。わざわざありがとうございました。「私怨」と騒いでいる方には、サイトのオープン前、「詳細を知りたい」とブログで書かれていたので、メールでお伝えした所、返信もなく、いきなりブログで詳細を晒されたことがありまして…そういう方なんですよ…。

「「私怨」と騒いでいる」って、私のことだろうか……。
だとしたら、この文章に書かれていることは全くの間違いである。

まず、私は佐藤さんに対して「詳細を知りたい」とブログで書いたことは一度もない。
私は「佐藤さんは全てのマンガ家に対してサイトのシステムを公開すべき(公開して議論の俎上に載せて多くのマンガ家にとってより良いものにしていく努力をすべき)」と提言しただけである。

で、それに対して、佐藤さんは私に対し「公開はできないが、個別にお知らせはしている。須賀原さんにも説明文をお送りしましょうか?」(大意)とメールで打診してきてくれたのだ。(これは素直にうれしかった。)

私はもちろん、それに対してちゃんと返信をした。(だから、「返信もなく」は佐藤さんの勘違いか間違い。)
以下、青字と緑字部分が私のメール全文である。

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一色登希彦さんとのやり取り2回目

昨日の私のエントリー「一色登希彦さんからご意見をいただいた」に対し、さらに一色登希彦さんからの反論「須賀原洋行さんのブログのご意見拝読しました。/その2」をいただいた。

どうにも噛み合わないなあ、と思って読み進んでいたが、この議論を読んでいた方がツイッターで反応して下さり、私の本意が一色さんに伝わったようで、1対1のやり取りは難しいことを痛感した。

で、議論だが、一色さんもおっしゃっている通り、双方、おおむね主張は出尽くしていると思うのだが、一色さんの追記の部分でまだ私の本意が伝わっていないところがあるので書いておこうと思う。
いい具合に一色さんが収束して下さっているのに、さらに書いてしまうのが私のKYなところなのだが、見せかけの融和はもっとイヤなので。
(以下、引用部は青字。)

ただ同時に「漫画onWeb」というものが、須賀原さんには申しわけないですが佐藤さんの「感情」を抜いてはやはり存在しえなかったと思います。
ですので佐藤さんに「感情を抜きにしてやってくれ」と我々が求めるのは酷だと自分は考えます。
それでも、読者さんお客さんに向けての誠意は佐藤さんは保っていますし、「漫画onWeb」の佇まい自体も決して「感情的」ではありません。

私はむしろ、佐藤さんがご自身の感情を一般読者にも明白に個人的感情としてサイト上で吐露していたのなら、編集者(直接の当事者はともかく)も私も不快になったり参加を怖くなったりしなかったと思います。
「佐藤さん、お気の毒」で済んでいたはず。

しかし、佐藤さんは一見、一般読者達にはさほど感情的には見えない表現でいかにも「業界の実態」みたいなものを暴露マンガや日記やツイッターで語ります。

私やまともな編集者から見ると、佐藤さんが個人的に体験したごく一部の編集者との関係における個人的イザコザやそれによって持つに至った個人的感情に過ぎないものを、(一色さんが使われる言葉をお借りすると)「一般化」して「(客観的な立場からの)告発」の形を取るのです。

多くの一般読者は、「編集者ってあんなひどい態度でマンガ家に接してるんだ」「出版社ってマンガ家から搾取しまくりなんだ」と思うでしょう。

「出版業界で描いていてもマンガ家は自分の儲けを中抜きされ恒常的に搾取され続けるだけ、編集者は自分の心を疲弊させるだけの存在、だから個人サイトを立ち上げたんだ、やっと本当の自由を手に入れた、もはや紙の出版社の終わりの始まりだ」という空気を作り、それを漫画onWebの駆動エネルギーにしているように私には見えるのです。

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一色登希彦さんからご意見をいただいた

マンガ家の一色登希彦さんから、私の「佐藤秀峰さんの質問コーナーへの疑問」に対する意見「須賀原洋行さんのブログのご意見拝読しました。」が寄せられた。
(以下、引用部は青字。)

今回は、
「漫画onWebオープン間際まで(略)原稿を出展させていただこうと思い、(略)作業をしてたんだけど、今のままじゃ怖くてとても参加できないよ。」
と述べていらした点についてのみ、自分の立場と無関係ではなく思い、考えを述べさせていただきます。

「漫画onWeb」への出展をお考えだったということでしたら、出展されるかどうかのご判断は、佐藤さんへのご評価と切り離してお考えになると良いのではないでしょうか?

切り離してお考えにならないと、須賀原さんの行動原理は「佐藤さんが、自分の思う「漫画家の心根」を持たない限り、漫画onWebには出展することはできない」というものになると思います。
そして、お気付きなのではないかと思いますが、佐藤さんが、須賀原さんがお考えになるような仕事観を持たれるようになる可能性は、高いようには思えません。

それは、個人の考え方の問題です。
その問題と、「出展するかどうか」といういわば「職業人がどのような仕事の仕方を選ぶか」(あるいは「趣味人がどのような遊び場を選ぶか」)という問題は、論理の舞台が違うと思います。

基本的な部分で誤解があると思う。

私は佐藤さんの「漫画家の心根」だとか「仕事観」に問題があるとは思っていないし、ましてやそれを変えたいなどとも思っていない。
そもそも、それだったら、最初から出展自体、微塵も考えないだろう。

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佐藤秀峰さんの質問コーナーへの疑問

今日、マンガ家の佐藤秀峰さんの日記に「質​問​コ​ー​ナ​ー​  ​第​2​9​回」がアップされた。
いつも興味深く読ませていただいているのだが、中には「ん?それは違うんじゃ……」と思ってしまう回答もある。

あのやり取りだけだと、多くの読者が佐藤さんの一方的な視点だけでマンガ家と出版社・編集者の関係を見てしまい、誤解が固定してしまうおそれがあるので、同業者として別の視点から異論を述べておこうと思う。
(以下、引用部は青字。)

Q.「新ブラよろ」9巻の表紙の件ですが、佐藤社長が描くのではなく、漫画onWeb及び、佐藤秀峰の作品が好きだというすべての人に、表紙を描いていただくっていうのはいかがでしょうか?
〜(中略)〜
9巻の表紙が白紙で発刊されるよりは、漫画onWeb及び、佐藤秀峰を応援したいっていうみんなの気持ちが詰まっている寄せ書きみたいな感じで良いかな?って思います。

A.単行本は出版社の商品なので、まず出版社がそのようなことはしないでしょう。
〜(中略)
「漫画onWeb及び、佐藤秀峰を応援したいっていうみんなの気持ちが詰まっている寄せ書き」を、出版社がカバーとして採用するかと言えば、しないと思います。
彼らにメリットがないので。

これはちょっと、佐藤さんの詭弁という感が否めない。

読者の寄せ書きみたいなものをコミックスの表紙には使えない理由は単純で、それじゃ売れないからだ。

寄せ書きしてくれる読者が横尾忠則とヒロヤマガタと千住博の3人とかだったら(しかもタダか格安だったら)、編集はよろこんで使うはず。

「(佐藤シンパの一般読者たちの寄せ書きでは)彼ら(編集)にメリットがない」と佐藤さんは断じているが、断じることができるのは、実は佐藤さん自身も「そんなのじゃ売れない」と思っているからではないだろうか。

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「漫画 on Web」が心配だ

「漫画 on Web」をオープンさせてからの佐藤さんがちょっとおかしい感じ……。
せっかくの晴れがましいオープンだというのに、ツイッターであきらめの境地みたいな言葉と出版社の悪口ばかり吐いている。

以前、このブログのエントリーで、「我を貫き通せば最後は笑える」とエールを送った私だが、今の佐藤さんは私怨を晴らすためだけに動いているような印象があって、老婆心ながら心配になってしまう。

理想のために我(われ)を貫いている状態ならば、いよいよそれが現実化し始めたのだから、もっと明るく前向きになると思うのだが、やけにうしろばかり振り返っては出版社に攻撃的なセリフを繰り返している。

参加する出展者さんたちにとってはサイトのイメージがとても大切だろう。
主催者には「我が道を明るく闊歩する」感じでいてほしいのではないだろうか。
出展作を出版社の編集さんが見て、仕事を依頼する可能性だってあるわけだから。

出展者さんたちが悪い方向での道連れになってしまったら意味はない。
これまでの佐藤さんの日記を読む限り、マンガを描いて発表したい者たちが成功するための新しい場作りというのが目的のはず。
私怨で台無しにしてはいけない。

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マンガ家は〆切りがないと走れない

昨日の夜までまんがズキュン3月号(2月15日発売)から新連載になる『実在ガキんちょ日記』 の作画をしていたのだが、下描き開始からパソコンでの仕上げ作業終了まで計6日もかかってしまった。

6ページなら、昔は2日で上げていた。
と言っても、2日目はアシさん2人が来て背景と仕上げをやってくれていたわけだが。

それでも、自分1人だと3倍の時間がかかるというのはおかしい。
せいぜい4日で上げないと。

理由はわかっている。
作画に時間が取れすぎるからだ。

今、連載の仕事は月刊の「本ゆ」と「ズキュン」、それに中日新聞だけである。
月産で最大14ページ(換算)くらい。
スケジュールがつまっていた頃は最大で50ページ近い枚数を描いていた。

今はアシさんなしでも十分1人でやれるページ数。
時間が余ってしまうくらいであり(そうでないと営業用の原稿が描けないが)、本来持っている作画作業の底力が出ないのだ。

多くの連載マンガ家がそうなのではないだろうか。
次々と迫り来る〆切りにケツを叩かれることによって潜在能力をフルに発揮する。
逆に言えば、〆切りに追われないと(何かでひっ迫しないと)人間は最大限の力が発揮できない。

そもそも〆切りに追われるマンガ家のスケジュールが人間離れしているという見方もできるが、週刊連載や、週刊でなくても複数連載をこなすマンガ家のほとんどは、このような、あたかもマラソンのオリンピック候補が代表選考会で走るような状況下で力を発揮してきたのである。

42.195キロを自分1人だけで走ったら、自己ベストに近い走りはとてもできないだろう。
練習で走る時も伴走者(競技仲間)がつく。
あるいはコーチが自転車や車で並走して檄を飛ばす。

アシスタントを5〜6人以上も使って同じ事務所で作画作業する売れっ子マンガ家はさしずめペースメーカーをつけて世界最高記録を出すQちゃんみたいなものか。
それを毎週やるのだ。

どうりで、大御所のマンガ家先生たちが皆60歳あたりでバタバタ死ぬわけだ。

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