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石原都知事はマンガ界の自主規制の実態を知ってるの?

http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/101130/tky1011302135012-n1.htm
取材陣から自主規制の現状を聞かれると 「自主規制が徹底していないから。氾濫に近い形だから制限せざるをえない。みんな我欲だよ。我欲でみんな反発する」

石原都知事はマンガ業界の現場を全く知らないのだと思う。

25年、マンガを描いてきた私は、編集現場の自主規制がかなりきついことを身をもって知っている。

今回の改正案では、
刑法や民法に違反する性行為を「不当に賛美し誇張するように描写された漫画等」 が規制を受けるそうだ。
http://sankei.jp.msn.com/region/kanto/tokyo/101122/tky1011222243015-n1.htm

私としては前回の非実在青少年がかかわる性行為 よりもさらにやばくなったような気がする。
編集現場(とマンガ家)がさらに萎縮して自主規制度を高めるのではないかと。

例えば、「他人のセックスを盗撮して楽しむ」のも一つの性行為だろう。
無論、盗撮は違法である。

昔、私は『気分は形而上』というマンガの「オタク学生武沢君」というシリーズの中で、武沢君がラブホの天井に小型CCDカメラを仕掛けて盗撮するというネームを描いた。
うろ覚えだが(自分で描いたくせに)、彼女を必死にラブホに誘い、その理由が他人のカップルの盗撮のためだった、みたいなオチだったと思う。

これは、当時の編集部の自主規制に引っかかって大幅に直した。
担当編集者はすんなり通してくれていたのだが(だいたい武沢君はそういうキャラで、似たようなネタは何度も描いていたし。例えば、電車で女性のワキを無断で撮影するとか、女性に無断で足首から先の石膏の型を取ってしまい、それをフリマで売るとか……etc)

校了責任者(たいてい副編集長が順番にやる)によっても違うのだ。
その時の責任者は私のギャグにはけっこう厳しかった。
遺伝子操作で病気をコントロール、みたいなネタをギャグ的に茶化して描いた時は、「おれの家系は大腸ガンの遺伝子を持っていて、それは予測可能になっている。だからこのマンガを読んでイヤな気分になった。1人、そういう気分になるなら、100万部近く売れているうちの雑誌の読者の中にはかなりそういう人が出るはずだ」という理由で直しを受けた。

別の校了責任者は、私がマンガの中で「ジプシー」という言葉を使ったら「それは差別用語。関係団体から抗議が来る可能性がある。「ロマニティ」に変えてくれ」と言ってきた。
同じ理由で「ホモ」もダメだと言われた。
テレビでも使われている言葉なので、すぐに納得がいかず、1時間くらい議論したけど、結局こっちが折れた。

他にも一杯、自主規制を経験してきたが、そういうことがあると、それ以降、確実に自分の中で表現の自由度が低下する。
「これ、やばいかもな」「これ描くとまた校了責任者ともめるかな」「担当さんが間に挟まれて申し訳ないな」「そんなことで時間を費やして作画のスケジュールがまた大変なことに……」などと事前に考えてしまう。

こういうことを積み重ねていくと、自分でも気づかないくらい、脳ミソの表現意欲に関わる部分が萎縮してしまう気がする。

石原さんはデビュー時からずっと大物だし、多分、これまで好きなように小説を書いてこれたのだろう。
だから、自主規制がどのようなものなのか、身体で知っていないのだ。

記者会見で反対を表明したちばてつや先生もブログで、
こういう動きが始まるとね、
漫画界全体、アニメ界全体の
作家たちが必要以上に意識、
また、萎縮していって
創作意欲がじわじわと
しぼんでしまうんだ。

とおっしゃっているけど、全く同感だ。

先生ほどの大御所でも、マンガ界ではこういう感覚に襲われているのだ。
文学の世界の自由度とは全く次元の違う窮屈な自主規制が何十年も前からマンガ界にはあるのだ。
「みんな我欲だよ。我欲でみんな反発する」
そんなチンケな理由で反発しているのではないのだ。

マンガ家達は皆、描けなくなってしまう怖さを感じているのだ。

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