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電子書籍印税率15%の「ひな形」は搾取なのか?

最近、出版社連合が電子書籍に関して、印税率を15%で統一することと、電子書籍化の権利を版元の出版社が独占的に持つ という、契約書のひな形を出したことが話題になっている。

(参考記事)
「asahi.com 本の電子化、契約書ひな型作成 出版社有利、作家反発も」
http://www.asahi.com/culture/update/1005/TKY201010050182.html

こう聞くと一瞬、出版社側のぼったくり的契約条件のように感じる人もいると思うが、はたして本当にそうだろうか。

たしかに、私も出展しているパブーなどは印税率70%で、しかも同じ作品を別の電子書籍サイトに出展しようが、出版社の紙の単行本で出そうが自由であり、それと比べれば、上述した「ひな形」の条件は出版社側にだけ非常に有利に見える。

「ひな形」を批判する人達の中には、作家、特に新人は立場が弱いので、出版社に未来永劫囲い込まれてしまい搾取され続けるだけ、みたいなことを言う人もいる。

しかし、私から見るとそういう人達は、作家に有利な部分を意図的に隠してミスリードを誘っているように見えて仕方ない。

まず、この契約は単行本1冊ごとに交わすものである。
作家の過去〜未来の著作全てを包括的に支配するようなものではない。

そして現状、この契約は紙の単行本を1冊出せる際に、それを電子書籍化する場合にはこういう条件で〜という意味合いのものであって、マンガで言えばその時点ですでに作者にはほとんどの場合、雑誌掲載時に原稿料が支払われていて、紙の単行本には刷った分だけ10%の印税が前払いで支払われている。
もちろん、売り切ることができなくても印税を返す必要はない。

仮に連載時の原稿料が1枚1万円で、140ページの本で、1冊500円で初版2万部だとすると、作家にはすでに2,400,000円支払われていることになる(25歳で国家公務員を辞めて無収入になった私がマンガ家としてデビュー&生活できたのも、こういうシステムのおかげである)。

最初から個人で電子書籍サイトで発表していたら、この金はゼロである。
そして、宣伝は全部自分でやらねばならない。
世にある程度知られた既存の作家なら、その名前が最初から宣伝効果を持つが、全くの新人はどうだろう。
一から自分を独力で世間に売らねばならないのだ(私ならマンガ家にはなれていないだろう)。

出版社で描ければ、雑誌という強力な宣伝媒体に乗っかることができる。
自分自身は駆け出しの新人でも、その雑誌内の売れっ子作家達と一緒に掲載されることで読んでもらえるわけだ。
冒頭の記事を見て「出版社の搾取だ」などという人は、こういった要素を知らないか、無視していると思う。

そして、出版契約書というのは単行本1冊ごとに交わすものだから、自分が売れっ子になって、出版社に対してそれなりに立場が優位になってきたら、次巻の契約では「ひな形」よりも自分に有利な条件を要求すればいいのだ。
また、契約書は5年ごとに更新なので、既刊についても変更は可能だ。

出版社側があくまで15%を譲らなかったら、かなりの売れっ子なら、その知名度を使って個人で電子書籍サイトに出すかもしれない。
出版社にとって有名作家流出は大損失なので、条件アップに応じる場合も増えてくるのではないか。
作家と作品によっては40〜50%も可能だろう。

新人はたしかに弱い立場だし、契約条件に文句をつけたりしたら単行本を出してもらえないおそれもあるだろう。
しかし、新人の場合、予想に反してまるで売れず、宣伝費のかけ損、原稿料の払い損で終わる場合だってあるわけで、最初は紙10%、電子15%という条件は妥当な線じゃないだろうか。

無論、今後は、デビューして出した最初の作品の1巻が、出版社と契約した電子書籍で莫大に売れる新人も出てくるだろう。
その場合は2巻からは条件アップを要求すればいいのであって、「1巻を15%契約で搾取されて大損した」などと言うとしたらお門違いである。

最初にどうやって自分がデビューできたか——これを忘れてはいけないと思う。

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