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アマゾンVS出版社 最後に笑うのはどっち?

キンドル「印税70%」の衝撃 不況の出版界には大脅威

だそうである。

キンドルというのは米アマゾンが開発し販売している電子ブックリーダーのことだ。

記事には、このキンドルによる電子書籍が普及することによって「著作者を囲い込んで紙の書籍を駆逐」するという見出しが躍っている。

なるほど、小説や専門書などの文章書き下ろしの書籍に関しては、著者が既存の出版社からではなく、アマゾンから直接出版というやり方に移ってしまいそうな気もする。

だが、マンガはどうだろう。

キンドル以外にも、アップルSONY等から新時代の電子ブックが発売されようとしているし、LGではこんな電子ペーパーも開発中だ。

キンドルがどうこうというより、メディアの主流がインターネットや携帯電話になった昨今、あと数年で出版は紙から電子ペーパー時代に移行するんだと思う。

そうなった場合のマンガ出版について予測してみる。

今、紙のコミックスの著者印税は基本的に10%である。
だが、電子ペーパー時代になったら、紙代、流通にかかる経費、取次や書店のマージン、出版社に在庫を置くための経費・税金などをなくせるので、もっと印税率を上げられるだろう。
上げないとアマゾンにマンガ家達が行ってしまう。

でも、70%にできるか?
それは無理だと思う。
出版社はアマゾンのように、出来上がった商品としてのコミックスを単に展示して売るだけの「場所」ではない。

既存の出版社の強みは、マンガ雑誌を出しつづけることによって優れたマンガ家と作品を輩出してきた実績とそのシステムだ。
これは(少なくとも現在の)アマゾンにはない。

これがある以上、マンガ出版が電子ペーパー時代に完全移行しても、既存の出版社によるマンガ雑誌は生き残る。
ネットコミック誌として生き残る。

したがって、出版・編集システム維持のための経費は引き続き必要になる。

それから、アニメ化とかドラマ化、映画化、グッズ化といった作品の二次使用を扱う版権ビジネスもこれまでの出版社の仕事だ。
現在の出版社には版権部、ライツ管理部などがあって、これにも経費がかかっている。
このために印税率を下げねばならないだろう。
なんだかんだで出版社から出すマンガの電子単行本は印税30%くらいになるのではないだろうか。

しかし、アマゾンは印税70%といっても、これは単に作品をキンドルで売れますよ、その対価ですよ、というものにすぎない。
つまり、アマゾンの取り分30%は場所代にすぎないのだ。

新人発掘・育成作業や、版権ビジネスの管理や事務までアマゾンはやってくれないだろう。
やってくれるとしても、別途経費を取るだろう。
作家個人でやるなら、著作権関係はけっこう煩雑なので専門の弁護士などを雇う必要があるだろう。
いろいろ取り仕切ってくれるマネージャーも必要かもしれない。

あと、現行のキンドルは文章の書籍用だ。
カラーにも非対応。
マンガだともっと容量が上がるし、カラーもほしい。
さらに高性能のキンドル開発が要求されるし、マンガの場合は印税率を70%より下げざるを得ないんじゃないだろうか。

それから、出版社のマンガ誌だとコミックスの印税とは別に、掲載に伴って原稿料が出る。
アシスタント経費が必要なマンガ家にとってはこれは大きいだろう。

以上を勘案すると、マンガ出版に関してはアマゾンも既存の出版社も、実質的な作家への利益還元率は30〜40%くらいで差はなくなるのではないだろうか。

そうなると、新しい才能の発掘、育成能力という意味では既存の出版社の編集システム、ノウハウは大きい。
アマゾンでも素人がいきなり自分の意志だけで作品を出してデビュー可能だが、それでは膨大な作品群に埋もれるだけになるかもしれない。
独り善がりの作品でも作者の意志だけで載せられるので、いつまでたっても売れる商業作品になり得ない可能性もある。

出版社のマンガ誌には熾烈なデビュー競争や連載生き残り競争がある。
作品を商品として観るシビアな価値判断がある。
編集者・編集部との真剣勝負によってプロの作家が育成されていく。

また、マンガ誌には〆切りというものがある。
これがあるからマンガ家はコンスタントに作品を描き続けられるのだ。

そして、プロならみんなわかっていることだが、無限に時間があって納得行くまで手直しすれば作品が面白くなるわけではないのだ。
むしろそれは独り善がりのこだわりを満載させてしまうだけであり、それよりも、限られた〆切りの中でベストを尽くすことで絶妙な力加減ができて、最良の娯楽作品になり得るのだ。

結局のところ、最後に読者とマンガ家が選ぶのは、やはり出版社によるネットマンガ誌と電子コミックスではないだろうか。

私は、電子ペーパー時代になったら講談社のミチャオが華麗に復活すると予測する。
やはりあれは企画者の慧眼だったのだ。

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