たけくまコメントへの反論
私が書いた「たけくまメモの欺瞞性」を竹熊さんが読んで下さったみたいで、「たけくまメモ・コメント掲示板」で少しだけ感想が書かれていたので、私ももう少し自分の考えを書いておく。
既存の出版社によるマンガ出版システムは限界にきているのだろうか。
私はそうは思わない。
地球規模でのエコの問題、そして、それに伴って地球規模で産業構造が転換期を迎えていて、さらには金融資本主義で無茶をやるもんだから経済不安が加速して世界的な不況になっており、それが日本のマンガ出版界にも大きな悪影響を与えているのは確かだ。
しかし、これは紙に代わるマンガ向きの簡易な電子メディア(媒体)が生まれれば、少なくともマンガ出版界の不安は一気に解決に向かうと思う。
ちょっと前にこのブログでも書いたような、有機ELなどを使った持ち運びが簡単な電子ペーパーなどである。
A5くらいの大きさで、ペラペラの紙のようなディスプレイ。
それとiPodのような小型軽量のマンガプレーヤーを組み合わせて何百作ものマンガ作品がどこででも読めるようにする。
そうなると、既存の出版流通システムは変わるかもしれない。
取り次ぎが不要になり、既存の書店もなくなるかもしれない。
だが、出版社があって、マンガ編集部があって、マンガ家志望者が賞に投稿や持ち込みをし、シビアな競争を勝ち抜いてデビューを果たし、プロとなったマンガ家が毎回担当編集者と打ち合わせをし、必要なら編集者が取材をしたり資料を集めたりし、編集者がマンガ家のプロットやネームをチェックして掲載に至り、ページ数がたまれば単行本に……といったマンガ作品発表のシステムは変わらないのではないか。
この部分がなくなれば、商業としての娯楽作品の質は一気に落ちるだろう。
作家は客観的視点を持ちにくくなり、描けば描くほど独り善がり性を増していく。
そのうち、自分で何を描いているのかよくわからなくなってしまう。
同人誌の市場はずっと活況を呈している。
同人作家には編集者のチェックはない。
だが、売れているのはエロパロばかりであって、それを同好の士同士が買い合う、巨大なオママゴト市場である。
けっして、エンターテインメント作品の市場ではない。
オリジナル創作かつエンターテインメントとしての商業マンガは既存の出版社の発表システムなしには存続し得ないと私は考える。
つまり、出版社自体はなくなったりはしないのだ。
電子ペーパーが普及すれば、マンガ出版界はさらに活況を呈し、逆に出版社は増えるのではないか。
確かに竹熊さんがおっしゃるように「webというまったく異質なインフラが出現した」けれども、それが「既成の出版システムの限界が露わになった」にどうしてつながるのか、私には理解できない。
単に、ハードとしてのメディア(媒体)が、今のところ、既存の紙の雑誌や単行本に比べて不便というだけであって、そこさえクリアできれば問題はなくなるのではないか。
実際、ネットのブログで人気の出た個人の日記やマンガなどが、紙の単行本となって売れている例もある。
webのみで採算がとれないのは、システムの問題ではなく、ハードの問題ではないのか。
竹熊さんの言う「町のパン屋さん」方式のマンガ家個人商店があってもいい。
増えていってもいい。
それにも電子ペーパーは役立つだろう。
だが、それは、コミケなどの大規模同人誌即売会システムの限界を露呈させることにはなるかもしれないが、既存の商業マンガ出版にはさしたる影響は与えないだろうと推測する。
マンガ家個人商店と、出版社+マンガ家では、作品のエンターテインメントとしての質が段違いだからだ。
自称プロマンガ家と、競争を勝ち抜いてデビューした本物のプロマンガ家の、どちらの作品に読者は自分の財布からお金を出すだろうか。
それから、講談社のマンガ配信サイト「MiChao!」が撤退するのではという情報は私も小耳にはさんでいるが、それは内部事情によるものであって、けっして、講談社で最初にweb展開を始めた慧眼の人達がwebを見限ったわけではない。
何度も言うが、便利な電子媒体が生まれ普及すれば一気に状況は変わるのであって、出版社は今はしんどくても、絶対にwebに食らいついておくべきである。
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