たけくまメモの欺瞞性
7月31日の「たけくまメモ」と、そこにリンクされている伊藤剛氏の記事を読んだ。
最初にはっきり感想を言ってしまえば、「ひどい」の一言だ。
竹熊氏はこれまでブログで何度となく「マンガ出版界の崩壊」について言及してきた。
だが、少なくとも私にとっては、説得力のある根拠は示されていない。
氏のブログを何度読み返しても、全然納得する根拠を見出せない。
私は、単に、日本の構造的な経済不況が原因であって、景気が本格的に回復すれば、またマンガ出版は盛り返すのではないかと思っている。
いや、確かに、紙の雑誌、紙の単行本に関しては、地球規模のエコの問題が深刻で、未来は明るくないかもしれない。
しかし、各出版社はそこを楽観視して何も手を打っていないかというと、そんなことはない。
20世紀末〜21世紀初頭の段階から、大手も中堅以下も、出版社はネット配信による新たなマンガ出版の道を探り始めていた。
そこに目をつける慧眼の編集者がちゃんといたのだ。
講談社は1999年に「Web現代」を立ち上げ、それが2005年に「MouRa」としてリニューアル。
私が『けつちゃん』を連載させていただいた「MiChao!」の「ピテカントロプス」は「MouRa」の中に入っていた。
竹書房はいがらしみきおの『Sink』をWeb連載しているし(2001年)、現在は「まんがライフWIN」などもスタートしている。
小学館は「ソク読みサンデー」(現在の「クラブサンデー」)を2008年に立ち上げている。
ネット配信の電子書籍(単行本)は「ebookjapan」だとか、「Renta!」などがあるし、ネットで注文すれば1冊から刷ってくれるオンデマンド配信講談社「KCオンデマンド」などもある。
私が知らないだけで、まだまだ他にもたくさんあるだろう。
とにかく、各出版社はすでにネットでのマンガ出版の道を探り続けているのだ。
しかも、ネット配信はほとんどが赤字であり、ネットだけでは全然儲けが出ないのだ。
それでも、近未来のマンガ界のためにネットに先行投資してきたのだ。
しかし、不思議なことに、竹熊氏はこういった既存の出版社によるネット配信システムについてはほとんど触れようとせず、ひたすら「マンガ出版界の危機〜崩壊」を言い募り、「ネットで個人が『町のパン屋さん』のような出版社」(の時代が来てもおかしくない)みたいな記事を書く。
従来の出版社の編集は不要で、編集エージェントがマンガ家と組んで(ネットメディアとのコラボも含む)企画を売り込むような時代が来る、といった記事を書く。
7月31日の記事では、以前は「『マンガ界』はこのままでは崩壊するからなんとかしなければ」と思っていたなどと書いているが、ではなぜ、その時に、上述のような既存の出版社によるネット配信の試みについて詳しく言及し、それを応援する態度をブログで示さなかったのか。
あれだけアクセス数の多いブログなのだから、どんどん紹介していくだけでもそれなりに効果はあったはずだ。
ブログからリンクしてすぐに飛べるようにすればよかったのではないか。
伊藤剛氏の記事はもっとひどい。
モーニングに関する部分は全て憶測である。
記事の中では「それが佐藤氏の言葉である以上、事実として扱うのにはいささか問題があるが」とか「講談社側のこの言葉が仮に事実だとするのならば」などエクスキューズを連発しながら、佐藤氏の側に立ってやはり「マンガ界の危機」を煽っている。
評論家を名乗るならば、そして大学で教鞭を取る立場ならば、直接モーニング編集部に取材するという最低限の過程を踏むべきではなかったのか。
はっきり言おう。
お二人とも、事実を意識的に無視して、自分に都合のよい視点から煽り立てることで、自分のメシのタネにしてるだけじゃないの?
佐藤さんのように自分で作品を作って勝負する人については最終的には応援したくなるが、ハゲタカのように周囲にいて、ターゲットが弱った時を見計らって食い物にする輩は心底軽蔑するだけだ。
あなた方の極めて私的で浅薄な視点からの煽りがマンガ出版界やそこで食っているマンガ家達にいかにマイナス効果を与えるか、じっくり考えてほしい。
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