『けつちゃん』のこと
ビンボー、暇なしというか、ネームの〆切り、完成原稿の〆切りが次から次へと連続するので、小心者の私はブログが書けません。一応、公開のブログなので、編集さんが見て、「明日〆切りなのに、なにブログなんか書いてんだよ」とか思うかもしれないし(笑)。
で、さっき『けつちゃん』の原稿が上がって送信したので、寝酒でも飲みながら一本ブログを書こうかと。
その『けつちゃん』ですが、講談社Michaoの「ピテカントロプス」でネット配信している連載マンガです。1ページ2コマずつ、4色カラーの絵本コミックの体裁をとっています。絵本〜と言っても、ほとんどマンガそのものですが。
「ピテカントロプス」での仕事のオファーをいただいたのは、2005年の暮れでした。実は『ゴキちゃん』のコミックボンボンの編集さんと、ピテカントロプスの編集さんにはその時、同時に会っているのです。お2人は元々、週刊モーニングで長く編集をやっておられた方々です。
その時来られたピテカントロプスのOさんは私がモーニングでデビューした時の初代担当さんです。機械的にあてがわれた担当ではなく、私がモーニングのコミックオープンというマンガ賞に応募し、その作品を気に入ってくれて佳作にねじ込んでくれた人です。(ちなみに、江川達也さんの初代担当もこの人です)
私は名古屋に住んでいて、郵送で初めてモーニングに応募したので、受賞時には一面識もありませんでした。受賞は本誌の発表を見て知りました。
で、その翌号で受賞作(『気分は形而上』第1巻所載)が掲載され、最終ページの次のページに「○号(たしか、その翌々号)から連載決定!」と書いてあるではありませんか。この時点で、まだ担当さんとは電話での連絡も取れていません。
受賞作が載った号が出た日の数日後に東京の椿山荘で授賞式があるようなので、行くことにしました。
授賞式でちばてつやさんから賞状をもらい、その後、2次会があるというので、みんなについていきました。そこで初めてOさんに会ったのです。
Oさん「あ、どうも、Oです」
私「ど、ども」「あ、あの……本誌に連載決定って出てますけど……」
Oさん「はい、○号から連載です。毎号(当時は月2回刊)3〜4ページ描いて下さい。次の〆切りは来週末あたりだけど大丈夫ですか?」
私「は、はい!もちろん!1週間に5〜6ページくらいは楽に描けます!」
実は受賞作の8ページに3カ月以上かかってましたが、そんなことは言えません。なにしろ、マンガ家デビューだけを目標に、5時に帰れる公務員という職業を選んで、組合の集会もさぼり、夜な夜な描き続けてきたのですから。このチャンスは絶対に逃すわけにはいかないと思いました。
Oさん「4コマだから、掲載分の3倍くらい毎回描いてよ。下描きまで完成したものでかまいません。その中から使えるものをチョイスします。4コマはこっちがあれこれ言って直させるようなものじゃないしね。作者の感性そのものだし。1本ずつ、これは使えるか使えないか判断するだけですね」「で、打率7割ならプロとして十分やっていけます」
打率7割がプロの合格ライン!
頭がクラクラしましたが、こうなったらやるしかありません。さっそく翌日から、仕事中にもアイデアを考える日々が続きました。
でも、いくら5時に帰れる公務員とは言え、睡眠ゼロは無理だし、そもそも公務員は復業禁止だし、このままではダメだと思い、1カ月後には職場に辞表を出していました。
私はノンキャリ公務員でしたが、局長(キャリア官僚)が強く慰留してきました。
局長「辞めて食べていけるの?」
私「まあ、なんとかなると思います」
局長「世の中そんな甘いもんじゃないよ。将来、親の面倒はどうするの?」
局長室で詰問を受けました。
局長にしてみれば、2年目の若い公務員が辞めるとなると、自分の管理能力を問われてしまうのでしょう。かなり強い調子であり、「これは問題だ。なんとかしないと」という局長の態度アリアリだったので、長引きそうだなと思いました。
でも、その時、横についてきてくれた課長さん(ノンキャリ)が……
「彼は真剣です。本人が本当にやりたいことをやらせてあげましょう」
私は驚きました。
課長という立場は、組合員ではないし、局長にはっきりものを言えるような位置ではありません。組合員ではないので遠くに飛ばされる可能性もあります。だいたい、普段はこんなことを局長に言うような人ではありませんでした。
課長「私も若い頃、こういう夢を持っていた時期があったんですよ。やりたい時にやらないと絶対、後で後悔するから」
私は課長さんが身を挺してまでやってくれたフォローに涙が出そうなほど感謝しました。
こうやってブログを何回か書いてみて、私は人生の恩人という存在に恵まれているなあとつくづく思います。転機の時や苦しい時に、必ず誰かが手をさしのべてくれます。
『けつちゃん』の連載開始もまさにそれでした。『ゴキちゃん』がボンボンの休刊でいったん終わらざるを得なくなった時にも、Oさんは「じゃあ、『けつちゃん』を月2回にすればいいよ」とこともなげに言って下さいました。
『けつちゃん』の第4話のスガイくんのように、私は心の中をうまく表情や言葉に表せないやつです。でも、感謝の気持ちはこれ以上ないほど持っています。
私の悩みは、いまだに恩人の方々に全然恩返しができていないことです。恩を受けっぱなし。今できるのは、Oさんと、ピテカントロプス発行人で週刊モーニング元編集長のKさんに『けつちゃん』を通して恩返しすること。
いろんな思いを込めて全力を傾注していますので、興味のある方はぜひ一度『けつちゃん』にアクセスしてみて下さい。
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